7.服はメッセージを出している
 インダストリー・レベルでの工業化は、織物段階でストップしてしまい、スーツ作りの標準化された工学は存在しません。だから誰でも良い服を作れるという訳にはいきません。良いスーツを作る自動機械はこの世に存在しません。
 ある程度以上のクオリティのスーツ作りはマニュファクチャーによってのみ可能です。工学の基礎すらないのですから、インダストリーでは出来ません。スーツ作りはいろんなところで建築に似ています。家は坪当たり20万円から30万、40万、50万それ以上どんな価格でも出来、一応みんな家です。だが安物の建売住宅と名建築家が設計管理した本普請との差は歴然です。品格がまるで違います。
 「人は何故服を着るのか、その意味は」は難しい問題です。だがこれだけは確かでしょう。文化的進化がここ約1万年、あまりに速すぎて形態的進化をする時間のなかった人間が、社会生活の中で「私はこういうものです」と衣服によって絶え間なく他の人達に非言語的メッセージを送って自分の性別、年齢、社会階層、職業、性格、気質、好み、趣味性、教育の程度、教養、思想を開陳しているのだと。だから衣服は大切です。

 シェイクスピアは自分の戯曲の中で言いました。「息子よ、服装は財布の許す限り立派にせよ」と。

Costly thy habit as thy purse can buy, 
But not express’d in fancy ; rich, not gaudy;
For the apparel oft proclaims the man, 
And they in France of the best rank and station
Are of a most select and generous chief in that.
(フランスへ旅立つ息子レアティーズに忠告するポローニアスの台詞、
ハムレット第一幕、第三場)