5.服は生き物
 スーツの表地はほとんどがウールです。ウールは生きていますので、吸湿すると伸び、乾燥すると短くなり、絶えず動いています。
 プラムのスーツは日本の通常の晴天時での湿度(45〜60%)の時を基準に作られていますので、その時の状態が最も美しい。上下10%前後の乾湿の変動に伴う素材の動きによる服のdefomationは吸収されて現れないようにshock absorberが構造的に計算されて組み込まれていますのでほとんど変化はありません。

乾の場合  フロントやポケットフラップがややそり気味になりますが、通常湿度になると元に戻ります。
湿の場合

 乾燥した通気の良い室内にハンガーを移して1,2日放置して、芯も含めて服全体の湿り抜きをして下さい。フロントがピックステッチで押さえてある服は元の状態に復して、まず再プレスの必要がありません。
 これが純正イタリアン・クラシカルによる本仕立ての真髄です。あわてて家庭で素人がプレスすると、服をこわしてしまいます。
 フロントにピックステッチのない場合も、基本的には同じように復元しますが、水にぬれたズボンの折り目が消えるように、膨らんだのだけは復元しませんので、フロント・エッジをプレスで押さえて折り目を作ってやって下さい。


−見返しの凹凸は何故あるか−
 お客様にお渡しされる時には一旦プレスで押さえて消してありますので目立ちませんが、日がたつにつれて見返しにはヨコ方向に凹凸が目立ってきます。この「いせ」はわざと入れてあるもので欠陥ではありません。目的は大気中の湿度の増減につれて伸縮するフロントをいつもクリーンに保つためです。
 毛織物はハイグラ・エクスパンションといって大気中の湿度が増えると水を吸って伸び、乾くと水を吐き出して縮み絶えず呼吸して動いています。
 その上、伸縮の動きは素材の種類によって千差万別で一定しません。そのためフロントをクリーンに保つためにどのメーカーの技術者も一方ならぬ苦心をします。
 プラムスーツのフロントは際立ってクリーンですが、これは千差万別の表素材の物性をいちいち吟味のうえ必要とされる見返しの「いせ」の量を計算し、素材が異なるごとにその量を変えて、正しく入れられてあるからです。見返しはフロントをクリーンに張るための「ばね」です。見返しのクリーンな服はまずフロントにもたつきが出ますし、一旦出たもたつきは乾いても復元しません。見返しに正しく入れられた凹凸(いせ)は良い服のしるしです。

−裏地のしわは何故あるか−

 見返しの呼吸(伸び縮み)を妨げないためと(見返しと裏地とのつなぎ目)、フロントの呼吸を妨げないため(脇縫い目と裏地との繋ぎ目)です。
 裏地は毛織物でなく、湿度によって伸縮しませんので、見返しとフロントの呼吸を妨げないようゆとりが取ってあるのです。

−何故お台場がないのか−
 上記のようにプラムの服は、表地の呼吸に対しいつでも前身頃を美しく保つよう裏地と見返しに工夫を凝らしているのですが、お台場を入れることにより見返しと裏地との下から上までのスムーズな繋ぎ目が分断され、見返しの呼吸が妨げられ、折角の工夫の効果が半減してしまいます。
 また裏地より固い生地が胸部分内側をおおうことは、ソフトさを欠くと同時にその表胸部分に「当たり」が出、きれいさを欠く原因ともなります。


プレス前の見返し・裏地