4.スーツにおよぼす布地の特性について
 布地は互いに直角に交差する多数の糸で構成 されています。四角い布地を引っ張ってみれば、その変形の仕方は、引っ張る方向によって際立って異なります。経(たて)糸や緯(よこ)糸に沿った方向に引っ張れば、布は少ししか伸びませんが、バイアスの向き(糸の方向に対し45度の方向)に引っ張ればかなり伸びます。

 しかるにスーツ作りにおいては引っ張りの作業が多い結果(特に緯地の目方向の)、全体に及ぼすひずみをいかに少なくするかという問題が常について回っております。しかも45度方向に引っ張られる場合は大きな歪が出ても左右対称的な歪で済みますが、中途半端な角度の引っ張りの場合は(もし起こるとすればほとんどがこの場合ですが)、大きな歪と同時に非対称な歪を生じ見るに耐えられないスーツとなってしまいます。それを避けるためには出来るだけ経糸や緯糸に沿った方向に作用させるようにして、ひずみを最小限に止めることが重要ですが、綿や麻のように余り動きのない素材の場合はまだいいですが、スーツの大方の素材であるウールの場合は、まさに上記のような問題にさらされ、難しい取り扱いを要求されます。

 さらにウールの場合は湿度による伸縮の問題も孕んでおり、一層その取扱いが難しいものにされております(この問題は後に詳述してあります)。

 歪のない(地の目の通った)きれいな服を作る。これもスーツ作りにとっては難しく重要な問題です。
 スーツの美しさを引出す重要な要因として美しいドレープがあります。スーツはそれ自体完成品ではありますが、動く生体である人間が着るものであり、動きにつれて現れる動的表情によって初めて本当の美しさが表象される一種の芸術作品です。それには生体の動きにつれて引出される美しいドレープが一役買っております。

 幸いスーツはドレープの出やすいウールを主体に使用しております。ドレープは引っ張って歪の出来易い素材に出来易すく、たとえば麻のように固い素材は出来にくく、そのような典型的な素材として、もし紙で服を作ったらドレープは全く出来ません。従って接着芯を前身頃に貼り表素材の動きを止めるのはこの意味合いからも好ましくありません。

 またウールはその物性からして曲面にはなじみやすい素材であり、その意味では体にフィットする立体的な構築物を作るフラット・テイラリングにウールを使うのは大いに理に適ったものであります。

 従ってこれら美的かつ製作上観点から、ウールという表素材には出来るだけその他素材を貼り付けない方が良いと言うことになりますが、このためにもプラムのスーツは細心の注意を払っております。

 これを一番阻害するのは前身頃に付ける芯ですが、プラムの場合はこれを表素材とは何箇所かで糸で止めているだけです。別記ウールの伸縮性からくる困難さから安易に逃れるという意味合いからも、ここに薄い芯を貼り付ける(所謂接着芯)ということが特に低価格のスーツでは一般的に行われており、前記着用時の美しさを引出すという意味合いからもこの方法は避けるべきではないかと思われます。