2.純正鎌衿とアーチ構造の肩−見えない所が大切−
 スーツは首廻りで着て背骨に全重量がかかる服が正しい良い服です。それにより首廻りにピタッと吸着くようになり、体全体をシャープにピッタリ包込んでいるように見せることが出来るようになります。また背骨は重い頭と上体を支えて重さを感じない強い構造ですので、重い素材の冬服も背骨に重量がかかる限り重さを感じません。鎌衿ごろしプレスは首廻りにカラーが吸付くような形で上着の重量を背骨に集中させるための重要な工程です。そして背骨に重量を集中させる(首廻りに引っ張り力を集中させる)ことにより、肩の部分は力学の原理により重力に逆らって浮き、肩峰があたらないようになるアーチ構造の肩が作り出されます。
 
鎌衿ごろしプレス作業

 良い服の条件として、体にぴったりと良くそっていることが重要な条件ですが、これは服が体に当たるところがなく、意味のない余分な空間がないということでもありますが、鎌衿は肩峰に服があたらないようにするアーチ構造の肩を作りあげるための重要なポイントの一つでもあります。

完成した鎌衿とアーチ構造の肩

(フランスCHAMPAGNE地方 REIMS大聖堂)

 ゴチック寺院の屋根はアーチ構造の力学で支えられ、あの堂々と天に聳える屋根作りが可能となっています。プラムの服はこの構築方法と全く同じ原理を取り入れています。
 ゴチック寺院のヴォールト天井推力がフライング・バットレスに逃がされ、アーチ構造を支えているのと同じように、スーツにおいても、衿殺しプレスによって首廻りに集中された力が持ち上げた上衣の両肩峰を、肩から胸にかけて表地の裏側に沿うように縫い付けられている毛芯や、肩に入れるパットと垂れ綿、さらに裏地等が上着を支える重要な壁になり、上着をシャンと見せることが出来るようになります。またそれは脊椎動物において、重い頭を背骨で支え、さらに肋骨とその間の筋肉・腱組織が複雑なフィンクトラスの圧縮部材となって胴体を支えているのにも似ています。

 最近肩パットや毛芯を取払ったシャツ仕立ての軽い服が流行っておりますが、これらの服の肩や前身頃がくしゃっとなっている形状を見れば、パットや毛芯の効果がよく分かると思います。シャツ地のような軽い素材でしたら良いでしょうが、ウールのような重い素材の場合はかえって重く感じるということにもなりかねません。
 従ってこれら目に見えないところに使われているものの品質とその据付技術が服の良否を決める非常に重要なポイントになることが理解されます。
 昔から人々はこれらに様々な材料を使ってまいりましたが、イタリアン・テイラリングにおいてはこれを柔らかくかつ張りのある素材を用いることにより、彼らの所謂フラットテイラリング(平らな布を使ってかつ平らな台の上で、人体の曲線に沿った複雑な曲線を持つ立方体を作り上げる技)が可能となったのであります。


―何故コンケーブなのか―

「キャラツェーニ派のイタリアン・クラシカル・スーツはコンケーブ気味の肩線である場合が多いのは何故か。」
 キャラツェーニ派の肩作りは、人間の肩にスーツが乗っからないようにするため、上記のように衿廻りに対する引っ張り力を利用して、衿廻りに力を集中させて肩峰を浮かせる技法をとるため、結果コンケーブの肩線になりやすいのです。   

アーチ構造の肩
標準の肩
なで肩
いかり肩


芯据え後のパーツ裏側

毛芯
   

プラムでは鎌衿ごろしプレスに重要な影響を及ぼす衿付けは、ハンドまつり縫いで行っています。

鎌衿ごろしでプレス後完成されたアーチ構造の肩

―大きい服なら誰でも作る―
 肩峰が当たらず、前肩が当たらず、腕を動かした時オメロが当たらず、運動が楽な上衣が機能的ですが、身体にフィットして機能的な服を作るのは困難です。

 そこで大方のスーツは、内径を大きくすることによって逃げるのが普通です。
     ・胸廻りを大きくする。
     ・アームホールを大きくする。
     ・袖を太くする。

 これでは楽になりますが、身体や腕の動きにフォローして服や袖が動くのではなく、身体・腕が服の中で泳ぐことになり、洋服の本来の思想から外れて、洋袋さらに羽織に近づき、シェイプはがたがたになり、洋服本来の美しさ、体の動きにつれての美しいドレープによる本当の洋服の美しさは望むべくもありません。
 さらに足に合わない大きめの靴が重く感じられ、よく足に沿った靴が重さを感じさせないのと同様に、身体に合わない大きめの服は重く感じ、身体にぴったり沿った服は、ネック以外でも身体全体が服の重量を吸収し重さを感じさせません。

 ヨーロッパ人は、日本人にとっては小さ過ぎると思われるような服や靴を着こなしている理由が理解出来るような気がします。彼らにとってはそれらは第二の膚なのです。
またそれだからこそ難しい技術を生み出す必要性もあったのでしょう。


大きい服では、中で体が泳ぎます
プラムの服は体の動きに服が フォローします