洋の文化に則って作られる洋服が、人間の体をなぞったリアリティに溢れたものになるのは、当然のことかもしれません。しかし一枚の柔らかい平面に過ぎない布地からそのような複雑な曲線を持つ立体製品に仕上げるのは、なかなか難しいものです。

 ヨーロッパでいち早くテイラー技術を確立したロンドンテイラー達は、表地に固い芯地を沿わせることにより、その立体性を確保しましたが、遅れてロンドンテイラー達からその技法を学んだイタリアン・クラシカルテイラー達は、よりソフトに体にピッタリと順応する技法を編み出しました。彼らはよりソフトな芯地を用いると同時に、様々な工夫を凝らしてそのようなスーツを完成させました。

 その結果現在世界で一番良い服を作るのはイタリアのテイラー達です。イタリアン・テイラリングがロンドン・テイラリングを凌駕し始めたのは、第一次大戦と第二次大戦の間のことと言われますが、その中核となったのはDOMENICO CARACENIと彼に学び彼に率いられたCARACENI派のテイラー達−イタリアン・クラシカル派−です。

 天才DOMENICOが創始開発したFLAT TAILORINGの技法によって、初めて男のスーツは立体的で美しく身体の曲面をなぞりながら、限りなくソフトに、限りなく軽く作られる道が拓かれました。

 やがて、この技法はその優秀さを認められて追随者が相次ぎ、急速に普及して、イタリアン・テイラリングそのものを指すようになりました。

 工場生産による既製スーツの分野でも、レディー・メーダーとなったこの派のテイラー達によって技法の工程化の努力が行われ、現在世界で最良の紳士既製服はイタリアで作られるのは半ば常識となっています。パリのオート・クチュール・デザイナー達のメンズ・ブティークで売られている紳士スーツも、きちんと芯据えをした良質のものは、ほとんどイタリア製です。  
 
 
DOMENICO CARACENI
DOMENICOの弟AUGUSTUS CARACENIと顧客達
(当時DOMENICOが技術を、AUGUSTUSが営業を担当していた)
DOMENICOの仕立てたレディーススーツ
DOMENICO CARACENI
1913年
ローマで創業
1926年
ミラノで開業
1935年
パリ店開業
1948年
病没
 その後息子のアウグステロがミラノ本店を、弟のアウグストはミラノに出店、同じくガリアーノがローマ店を継承。それぞれドメニコの弟子達をマスターテイラーに迎え、繁栄した。