1、本物のスーツ
 人間の体はまず第1に曲面で構成された立体です。次に生体は生命があって運動するのです。動く曲面立体である生体に気持ちよくぴったりそって人体をなぞった曲面で出来て形の良い外衣とは、人間のもう一枚の皮膚(人間の毛皮)に他なりません。フラットな織物を素材として裸のサルである「ヒト」の毛皮を作ること。これがスーツ作りの究極の理想と言えましょう。

 この意味ではスーツの素材としてウールが用いられるのは、その物性からして非常に理に適ったものであります。身体にぴったりとなじみ、柔らかくフィットし、容易に身体の姿勢に適合するという物性は、まさに第二の皮膚に相応しい素材であります。

 この素材とフラット・テイラリングの技術との結婚が、本物のスーツ作りを可能にしたと言えます。
 
2、スーツの特徴とは
−洋服と和服の違い−
 スーツは「洋服」です。靴と同じくヨーロッパのものです。同じヨーロッパ人が作り上げたものですから、靴も服も同じ志向性を持っています。ヨーロッパ諸国の言い回しで靴を「履く」のも服を「着る」のも同じ語を使うことが多いのは、そのあらわれです。

 例えば英語では靴を履くのも服を着るのも帽子を被るのもみな同一表現でPut onです。同じ思想で身に付けるもので3つの違った付け方でないわけです。
 靴は足を入れれば履けます。履き方は難しくありません。同じ思想で作られた洋服も、靴を履くように袖を通して身に付ければそれで終わりです。着方は難しくありません。

 これに対して和服(着物)は直線裁ちの平面構成で、着付けによって体の曲面にそわせますので着付けが難しく、着付けを学ばないと正しい着付けが出来ません。着付けの講座や着付けの先生があるのは、和服が服として半製品で、着る人が着付けによって完成品にするといえます。

 これに反し洋服は完成品で、靴のように成型されているのが本来です。

良い洋服に要求される属性とは−
 良い洋服に要求される属性は、良い靴に要求されるものと本質上全く同じです。同じ「洋の思想から発しているからです。
1,クリーンに仕上がっていること。
2,形が良いこと。
3,小さすぎないこと。
4,大きすぎないこと
5,当たるところがないこと。体によくそっていること。
6,意味のない余分の空間がないこと。
7,着心地が良いこと
8,型崩れしないこと。
9,軽いこと。
10,柔らかいこと。
布で作る塑像
平面的な服
美しい生体をなぞった服
服自身が完成品
着られることによって
服は完成